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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)1435号 判決

本籍

静岡県磐田郡長野村前野一八〇六番地

住居

同県浜名郡新居町新居一七五九番地の一

宗教法人主管者

晴善こと

木舟直太郎

明治一五年四月六日生

本籍並びに住所

静岡県磐田市中泉三四九番地の一

宗教法人主管者

長谷川サト

大正元年九月四日生

本籍並びに住居

同県同市中泉三二二番地の三

靴修繕業

中田泉

明治三九年八月五日生

本籍

静岡県磐田郡豊浜村豊浜二三番地

住居

同所二二番地の一

農業

内野信夫

大正三年八月一三日生

本籍

静岡県磐田郡豊浜村中野七八七番地

住居

同所七四一番地の二

加藤勇雄

大正三年二月五日生

右各被告人に対する臨時物資需給調整法違反被告事件について、昭和二五年七月一三日東京高等裁判所の言渡した判決に対し、被告人長谷川サトの原審弁護人原玉重、及び被告人木舟直太郎、中田泉、内野信夫、加藤勇雄から各上告の申立があつたので、当裁判所は刑訴施行法第二条に則り次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人木舟直太郎及び被告人長谷川サト、同中田泉、同内野信夫、同加藤勇雄の弁護人原玉重の上告趣意は末尾に添附し〓〓紙記載の通りである。

〓告人木舟直太郎上告趣意について。

論旨は多岐にわたつているが、結局判示事実は宗教法人の目的とする事業上の行為であるから罪とならないこと、及び、原審の事実誤認を主張することに帰する、しかし原審の事実誤認の主張は上告適法の理由とならないし、宗教法人の事業であるからとて経済統制に服さなくともよいという理由のないことは原判決説示の通りであるから、論旨は採用できない。

被告人長谷川サト、中田泉、内野信夫、加藤勇雄の弁護人原玉重上告趣意第一点、第二点について。

被告人等が判示搾油をしても罪とならないと誤信したのは、所論「法人の事業として搾油をなすことを登記すれば罪とならない、何となれば右法人は明治三五年三月一〇日時の商工大臣の許可を得て製油製肥料工業等の事業をやつてよいことになつて居り、昭和一七年一月一七日にも其の手続がしてあるからだ」ということを、木舟直太郎から告げられた為めであるとしても、右の如き事情は違法阻却の事実を誤認したことには当らない、何となれば右所論の如き事情は、本件昭和二二年農林省令第九八号油糧需給調整規則第一〇条、臨時物資需給調整法第一条、第四条等違反の罪の成否に関係なきことであるからである。従つて被告人等が木舟から右事情を告げられた為め判示搾油をしても罪とならないと誤信して搾油したことは、畢竟右油糧需給調整規則を知らないため被告人等の行為に対する違法性の認識がなかつたというだけであつて、未だ以て所論のように事実の錯誤乃至非刑罰法規の錯誤により本犯罪に対する犯意が阻却せられる場合にあたるものとはいい得ないから論旨は理由がない。

同第三点について。

被告人等が信ずる宗教の主宰者の言を信じた為めに判示行為は罪とならないと誤信したとしても、それは錯誤により違法性の認識がなかつたというに止り、犯罪構成要件たる事実についての認識がなかつたとはいえない。そしてたとえ右の錯誤が所論のような信仰者間の服従関係に由来するとしても、そのような事情によつて特に被告人等の犯意が阻却せられるものと解することはできないから、論旨は理由がない。

同第四点について。

所論の如き主張は、旧刑訴第三六〇条二項に所謂「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」とはいえないから一々これに対する判断を示す必要はないのみならず、原判決の説示は所論の如き主張のすべてについて判断を示していると解すべきである。従つて論旨は採用できない。

よつて旧刑訴四四六条により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

検察官 長部謹吾関与

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介)

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